継続的なストレスを受ける影響
継続的なストレスやトラウマ、=慢性的なトラウマ体験は、精神的(身体的)な障害を引き起こし、後々複雑性PTSDや、解離・解離性同一性障害の症状を発症することがあります。通常のPTSDとは異なり、ストレスやトラウマ体験が長期間にわたることよって発症することが知られています。
なお、早期の愛着のトラウマ経験、早期圧倒的トラウマ経験が、それらの障害を引き起こしやすいことも知られています。
早期愛着トラウマ経験・早期圧倒的トラウマ経験
早期愛着トラウマ経験とは、早期の発達段階で、親や主要な養育者との関係におけるトラウマ体験のことです。これは、安全や安定、愛情などの基本的なニーズが充たされない、または脅かされる状況に置かれた結果生じる可能性があります。例えば、虐待、放置、心理的な虐待、または家庭内の混乱、親が精神疾患などで子の養育の能力に欠けていたなどが含まれます。
早期圧倒的トラウマは、幼少期に特に強烈で圧倒的なトラウマ体験を経験した場合に発生します。このような体験は、個人の心の安定や発達に深刻な影響を与える可能性があります。例えば、自然災害や事故、大きな手術体験、暴力的な事件・事故などがこれに該当します。
なお、継続的なストレスを抱えたとしても、それらを自覚し、メンタルヘルスのためにセルフケアや自己調整ができれば、障害には至りません。
一方で、早期(幼少期・児童期)にはそれら、自分が自分をケアする能力や資源、環境は少なく後々「障害」に至りやすいのです。
ACE研究について
こうした、小児期の逆境体験=ACE(Adverce Childfood Experience)研究(※1)として知られており、ACEの累積はがんや糖尿病、頻繁な転居、就労の問題、経済的困窮とも関連しています。
また、ACEが、心身の幅広い健康、社会的機能におおきな影響を与える背景としては、重度かつ、有害なストレスによって、脳神経や免疫システムが十分かつ適切な仕方で発達することができないことが考えられています。
それが思春期を通じて、ストレス耐性の低下、認知、感情、行動様式にも影響し、成人後のストレス耐性に対しても脆弱性をもたらす可能性があるとされています。
複雑性PTSDの症状
上記、早期の愛着トラウマ体験の他、それ以外に反復・持続的に経験したトラウマ体験は複雑性PTSDが生じる可能性があります。
下記のような症状に悩まされているとしたら、それは、複雑性PTSDがゆえの症状かもしれません。
負の認知と感情
自己価値感の低下、希望の喪失、絶望感、または罪悪感などのマイナスの感情が常に現れることがあります。怒りや不安も一般的な反応です。
人間関係の問題
信頼感の欠如や、感情調節の困難さから他人との関係における問題が生じることがあります。過去のトラウマ体験に基づく不安や恐怖が、健全な関係を形成する障害となります。
自己の変容
トラウマの影響で自己イメージやアイデンティティが変化することがあります。恥を抱えやすい、無力感や絶望、これは、自己評価の低下や自己同一性の喪失を含む場合があります。
適応の困難さ
日常生活での問題解決やストレス管理に困難が生じることがあります。集中力や注意力の低下、睡眠障害、または身体的な症状(頭痛や消化器症状、呼吸の問題など)が現れることもあります。
再体験症状
過去のトラウマ体験を思い出すこと、嫌な記憶やフラッシュバックが現れることがあります。これは、夢や日中の幻覚として表れることもあります。
日常を送る中で、何らかの刺激、例えば、臭い、場所、音、目で見たもの等が引き金(トリガー)となり、記憶やフラッシュバックが出てくることがあります。
回避
過去のトラウマに関連する場面や人との接触を避けることがあります。また、トラウマについて話すことを避けることもあります。フラッシュバックを避けるための防衛的な行動です。また、過去の一時期の記憶がないことも回避の症状です。
感覚の過敏さ
何らかをきっかけに過度に何かに身構える、表情を伺う、周囲の声や物音への敏感さも出てくることがあります。
手続き記憶について
これらの症状は、「無意識」の影響による潜在的な手続き的な記憶がゆえに起こります。
潜在的な手続き記憶とは、個人が過去の経験から学んだ反応や行動パターンが、意識の外にありながら、行動や感情に影響を与えるという概念です。つまり、過去のトラウマ体験が無意識のうちに現在の行動や感情に影響を与える可能性があるということです。
過去に経験した、トラウマから逃れようと、無意識の手続き記憶が発動し、防衛反応や行動パターン、神経・免疫系が影響する症状が起こります。この防衛のメカニズムは、心理的なストレスや脅威から自己を守るために心・身体反応が使用する手段です。
なお、「解離症状」は、トラウマに対する一種の防衛メカニズムであり、トラウマ体験を分離することで、それによって引き起こされる苦痛や不安から逃れる試みと見なされます。解離により、トラウマ体験が記憶から分離され、個人がその出来事を適切に処理することなく生活することが可能になります。解離性障害・解離性同一性障害もまた、反復継続したトラウマからの障害といえます。
複雑性PTSDの治療・心理(精神)療法
前述したように、長期に、重なったトラウマ経験は身体の手続き記憶や神経系にも影響しますので、それらと心理は相互に密接しています。
こちらRenewでは、そういった複雑性PTSD特徴を踏まえながら、クライアントさんの感情・感覚・認知・身体(神経系)を包括的にアプローチする神経自我統合アプローチや、DARe(ダイナミック愛着修復アプローチ)、Somatic Experiencing™療法など身体志向心理療法を主に行っています。
心理療法を受けたはじめは、新しい感覚やセッションに戸惑うことも多くあるかもしれませんが、それらの戸惑いや葛藤も考慮セッションを進めてまいります。なお、クライアントさんのかかりつけの心療内科医・精神科医との連携・指示のもとに進めていくことも行っています。
なお、複雑性PTSDを抱えた方の中には、人に助けを求めること、何か新しく始めることに対し強い躊躇する方も多くいらっしゃいます。自己評価の低さや、悲観的になりやすい、過去の過酷な経験から失敗恐怖や叱責恐怖・他者評価恐怖もあるかもしれません。(※)
それらも障害・これまでのトラウマ経験がゆえの症状と捉え、今・そして未来のために、適切な治療・セラピスト・心理療法に出会い繋がっていただけると幸いです。
☆複雑性PTSDの治療・心理慮法には、他に、CRM(総括的リソースモデル)、STAIRナラティブセラピー、EMDR、センサリーモーターサイコセラピー、内的家族システム療法などのアプローチもあります。
引用参考文献
- 精神医学2023.8 複雑性PTSDの臨床
- ACE研究https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1220020135.pdf
- 複雑性PTSD 生き残ることから生き抜くことへ ピート・ウォーカー, 牧野 有可里他 | 2023