寒暖差のあるここ最近ですね。
春の気配がして、あたたかさも感じ始め、心身が少しほっとしているこの頃です。
一方で、年度末に差し掛かり、この先の変化にざわざわしたり、落ち着かない感覚を抱いている方も多いかもしれません。

現在地に着地するということーグラウンディング
ざわざわで落ち着かないなど、心に過度な負荷がかかると、その気持ちに飲み込まれたり、私たちの思考は「過去の後悔」や「未来の不安」へと飛び交い、現在の現実から離れやすくなります。
そこで、こちらで提供している心理セラピーで「グラウンディング」を一緒にエクササイズとして実践することもあります。
グラウンディングとは、「地に足をつける」ことを意味します。
心理学の文脈では、不安や恐怖によって乱れた心を、「今、ここ」の身体感覚や周囲の状況に意識を向けることで安定させるアプローチです。
物理的な現実と自己を再接続し、意識を「今」という瞬間につなぎとめることは、心理的安定を取り戻すために大切な要素です。
そして、グラウンディングの感覚と自分の中心軸を自分の中に会得することは、長期的なメンタルヘルスを支える、揺るぎない土台となります。
グラウンディングは人生の嵐の中でも自分をつなぎとめてくれる「心の錨(いかり)」を持つことにほかなりません。
トラウマを抱える方へ|「今の安全」とつながる意味
過去に深刻な傷つきを体験した方は、フラッシュバックや解離(意識が遠のく感覚)に悩まされることがあります。
それは、苦痛な体験があった影響で、神経系が、「今・ここ」も危険か安全が分からなくなってしまった影響です。
グラウンディングによって「現在の安全な現実」とつながり続けることは、過去の苦痛に飲み込まれるのを防ぎ、今この瞬間の安全を確保するための大切な支えになります。
心と身体を、安全な環境でもう一度出会わせること。
今ここに、やさしく着地すること。呼吸が少し深くなるだけで、神経は「もう大丈夫かもしれない」と、学び直します。
もう大丈夫ー安全であると感じることの難しさ
グラウンディング(地に足をつけること)は、一見シンプルなセルフケアに見えますが、発達性トラウマや防衛的適応(複雑性トラウマの影響)を抱えている方にとっては、時に「恐怖」を伴う非常に難しい作業になることがあります。
なぜ「安全になろうとすること」が「難しさ」に繋がるのか、その心理的・身体的なメカニズムを紐解きます。
1. 「身体」がかつての戦場だったから
発達性トラウマを持つ場合、幼少期の安心できない環境の中で、身体は常に緊張や脅威にさらされてきました。
- 身体感覚への恐怖: 身体の内側に意識を向けると、過去に抑圧した「恐怖」「痛み」「無力感」などの不快な感覚が呼び覚まされてしまうことがあります。
- 「今、ここ」の不在が生存戦略だった: 辛すぎる現実から逃れるために、意識を身体から切り離すことで自分を守ってきた人にとって、**身体に戻ることは「守りを解いて無防備になること」**と同じ意味を持ってしまうのです。
2. 「防衛的適応」としての過覚醒と低覚醒
神経系が「安全」を学習する機会を奪われると、極端な反応で自分を守ろうとします。
- 過覚醒(サバイバルモード): 常に周囲を警戒し、心拍が速く、筋肉が強張っている状態。この状態の人に「リラックスして地面を感じて」と言うのは、戦場で武器を捨てろと言うようなもので、かえってパニックを誘発することがあります。
- 低覚醒(シャットダウン): 感情が麻痺し、ぼーっとして力が入りにくい状態。地面を感じようとしても、感覚そのものが「遠い」ため、グラウンディングの手応えが得られず、かえって孤立感を深めることがあります。
3. 「安全」という感覚への不信感
発達性トラウマの背景には、養育者などの「本来安全であるべき対象」が脅威だったという経験が含まれることが多いです。
- リラックスの逆説: 身体が緩む(リラックスする)と、防衛反応が弱まります。トラウマを抱えた神経系にとって、防衛が弱まること=無防備さが危険と誤学習しているため、安全になろうとすればするほど、脳がアラートを鳴らしてしまうのです。

生き延びるモードから、人生を生きるモードへ
トラウマからの回復とは、症状が「消える」ことだけを意味するのではありません。ずっと「生き延びるモード」で頑張ってきた神経系が、「人生を生きるモード」へ移っていくこと。
それは劇的ではなく、静かで、ゆるやかな変化です。
もし、グラウンディングをしようとして「なんだか落ち着かない」「かえって不安になる」「何も感じられない」と思ってもOKです。
それは、あなたの心と身体が、これまで過酷な環境を生き抜くために一生懸命につくりあげた**「防衛(守り)」**が、今もあなたを守ろうと機能している証拠だからです。
グラウンディングは「上手にできること」が目的ではありません。 心も身体も安全でいられることを少しずつでも増やしていくことが大切。
「今は、やらない方が安全だ」という身体の声を聴けることも回復のためのケアのひとつです。
読んでいただきありがとうございました。



